一時帰国で住民票は移すべき?メリットやデメリット、注意点を解説

1年以上の長期間に渡って海外住んでいる人が日本へ一時帰国する場合、「住民票を一旦日本へ移そうか」と迷う人もいるのではないでしょうか。しかし住民票は必ずしも本人の意思どおりに動かせるとは限りません。また住民票を移すことにはメリット・デメリットがあります。

一時帰国者の住民票異動については、自治体によって対応が異なることも。そこで今回は、一時帰国時に住民票を移すメリット・デメリットと手続きをする上での注意点を解説します。

一時帰国で住民票は移せるのか

本帰国とは違い、一時的に日本に帰ってきて一定期間滞在するのが一時帰国。再び日本を離れることが明らかであるにもかかわらず、住民票が移せるのか疑問に思う人も多いのではないでしょうか。

そもそも住民票とは何か

住民票とは、「住民の居住関係を公に証明するもの」です。各市区町村では住民基本台帳法に基づき、居住している人の氏名や住所、生年月日、転入日などの個人情報を住民基本台帳に記録しています。これらの情報を踏まえ、個人別または世帯別に居住の事実を対外的に証明できるのが住民票です。

駐在やその帯同、留学などによって1年以上に渡って日本を離れる場合、住民票は一旦「除票」とするのが一般的。そして本帰国の際に、帰国後に居住する自治体へ転入届を提出して住民票を復活させるのです。

一時帰国で住民票を移すことは可能

一時帰国時に住民票を移すこと自体は可能です。しかし転入届の提出さえすればよいというわけではありません。滞在期間や生活本拠などを巡って転入届が受理されない可能性もあるため、注意が必要です。

事前に転入先の自治体に確認をしよう

住民票を移すにあたっては、事前に転入先の自治体にその可否について確認をしておきましょう。転入届を受け付けるのは、日本での居住先がある自治体。この自治体によっても、対応が多少異なるようです。

一時帰国者の転入届について、自治体によってはホームページ上で「1年未満の滞在時は転入届を受理しない」旨を明記しているところもあります。他方、数週間の滞在であっても理由を問わずに転入届を受理するところもあり、その対応について一概にいうことはできません。

住民票の異動は滞在期間と生活の本拠がポイント

一時帰国時の住民票の異動については自治体によっても対応が変わり得ます。しかし住民票の異動要否や受付可否については、以下の2点について考慮されるのが一般的です。これらについて詳細を尋ねられることもあれば、何も聞かれずに届出が受理されることもあります。

なお特別な理由がある場合は、以下の2点に当てはまらなくても住民票の異動が許可されます。

滞在期間の目安は1年以上

海外へ赴任したり、帰国したりする際に住民票を異動させる目安は、その滞在期間が1年を超えるか否か。たとえば海外に赴任する際も、1年未満であれば短期滞在とみなされるため、住民票を実家や家族が住む住所に残したまま渡航する人も多くいます。同様に一時帰国についても「日本に滞在する期間が1年を超えるか否か」が1つのポイントとなります。

生活の本拠が日本にあるか

2つの目としては、「生活の本拠が日本にあるか」がポイント。住民基本台帳法では、生活の本拠がある住所にて住民票を登録することが定められています。つまり仕事やその他の生活をする上での本拠が移っていない場合には、住民票を異動させる必要はありません。

一方で生活の本拠は「客観的に判断することが難しい」ともされています。よって短期的な一時帰国であっても本人が「生活の本拠が日本に移る」と主張すれば、転入届は受理されるようです。

一時帰国時に住民票を移すメリットとは

住民票があることで様々な行政サービスが受けられたり、各種手続きができたりするのが、一時帰国時に住民票を移すメリット。ただし1年未満の滞在かつ生活の本拠を海外に残したままであるにもかかわらず、この「メリットを受けるためだけ」に事実を偽りながら住民票を異動させることはオススメできません。

医療費負担が1~3割になる

海外での高額な医療費を考えると、医療費の自己負担が抑えられるのは大きなメリット。国内での保険診療の場合、6歳から69歳までの人の窓口負担は、診察料や薬代の3割です。その他の年齢では、6歳未満と70歳から74歳までの人は2割、75歳以上の人は1割と定められています。ただし70歳以上の人で現役並みの所得がある人の負担は3割です。

社会保険に加入しない人が一時帰国時に住民票を移す場合には、国民年金と同様に国民健康保険への加入が義務付けられます。役所で必要な手続きをすると、保険証はその場で発行されるため、すぐに医療機関を受診することも可能です。帰国中に体調を崩したりケガをしてしまったりしたときも、保険証があれば安心ですね。

マイナンバーが発行される

住民票ができるのと同時に発行されるのが、マイナンバー。マイナンバーカードを発行するために必要な通知カードは、手続き後1ヶ月以内を目途に簡易書留で本人宛に郵送されますが、番号はその場で付与されます。番号を証明する書類がすぐに必要な場合は、それが記載された住民票を発行してもらうとよいでしょう。

最近ではマイナンバーがないと銀行で新規に口座開設ができなかったり、海外送金もできない場合があります。一時帰国中にマイナンバーが必要になるか否かは、あらかじめ確認しておくと無難です。なおマイナンバーを以前取得したことがある人は、再び同じ番号が付与されます。

子どもがいる場合のメリット

子どもがいる場合は、その住民票を移すことで得られるメリットがあります。子連れで一時帰国をする人は、以下の3点についても確認しておきましょう。

医療費が無料または割引になる

子どもの医療費における自己負担は、6歳未満が2割、6歳以上が3割です。しかし本来自己負担すべき額を各自治体が補助することによって、一定年齢に達するまでは医療費がかからなかったり減額されたりします。ただし夜間や休日診療、自由診療などに該当する場合は、費用負担が発生します。

子どもの医療費補助の対象年齢は自治体によってさまざま。全国的には、15歳の年度末まで補助を行っている自治体が最も多い一方で、就学前までとしている自治体も一定数あります。子どもの年齢と転入先によっては、医療費の有無や負担割合が異なることを覚えておきましょう。

児童手当がもらえる

住民票がある上で、中学生以下の子どもを養育している場合にもらえるのが児童手当。一時帰国であっても住民票があれば受け取ることができます。支給額は3歳未満が一律15,000円、3歳以上から小学校6年生までが10,000円(第3子以降は15,000円)、中学生は10,000円。ただし養育者の所得が限度額以上である場合には、支給額は一律5,000円です。

就学させられる

住民票があれば、転入先の自治体にある公立学校に子どもを通わせられます。短期であっても、子どもに日本の教育を受けさせたいと考えている場合には、検討してみるとよいでしょう。ただし期間によっては受け入れが難しいこともあるため、事前に自治体や学校へ相談するのをオススメします。

一時帰国時に住民票を移すデメリットとは

一時帰国時に住民票を移すことにはメリットがある反面、デメリットもあります。「メリットよりもデメリットの方が大きかった」とならないよう、あらかじめデメリットについても確認しておきましょう。

国民健康保険や国民年金の支払いが発生する

海外渡航前に、国民健康保険や国民年金の任意加入者となっていない人が帰国時に住民票を移した場合は、それらに加入する義務を負い、それぞれに対して支払いが発生します。ただし社会保険に加入する場合は、国民健康保険に加入する必要はありません。

国民健康保険の保険料は所得に応じて決まりますが、前年に国内での所得がない場合は均等割と平等割分のみを負担します。国民年金の保険料は毎年見直しがされるものの、所得や年齢を問わず一律。令和3年度は月額16,610円です。

税金の支払いが発生する

住民票を移すと発生するのが住民税の支払い。ただし住民税の納税義務が発生するのは、下記の要件を満たしたときです。したがって住民票を移したとしても、必ずしも納税義務が発生するとは限りません。

  • 1月1日時点で日本国内に住民票があること
  • 前年に日本国内で所得があること

一時帰国時の住民票の移し方と注意点

一時帰国時に住民票を移す際は、提出期限や持ち物に注意しましょう。また海外へ再渡航する際にも注意が必要です。以下はあくまでも一般例であるため、念のため転入先市区町村のホームページで確認するか、直接電話をして問い合わせることをオススメします。

住民票の移し方

住民票を移すには、帰国日から14日以内に転入先市区町村の役所またはその出張所へ、転入届を提出しなければなりません。手続きをする際の持ち物は、以下のとおりです。なお家族で帰国している場合は、住民票を移す全員分のものが必要になります。

  • パスポート
  • 戸籍謄本
  • 戸籍の附票の写し

以上のほか、自治体によっては年金手帳やマイナンバーカード(所有者のみ)、認印などが求められることもあるようです。

パスポートには、入国時のスタンプが押されているとベスト。自動化ゲートを通過した場合など、入国スタンプが押されていないときは、入管職員に押印を依頼するか、帰国日を証明できるように航空券の半券を持参するようにしましょう。

再渡航前は海外転出届を提出する

一時帰国時に住民票を移した場合は、再渡航の14日前から前日までに海外転出届を自治体へ提出しなければなりません。手続きをする際には、返納義務がある国民健康保険証も忘れずに持参しましょう。

転出届を提出しないと、国民健康保険や国民年金などの支払いを止めることができません。提出漏れに後日気づいた場合は、委任状を作成した上で、親族に代理提出を依頼しましょう。

まとめ

一時帰国において住民票を移す必要があるのは、滞在期間が1年以上に及ぶ場合や生活の本拠が国内にある場合、その他特別な理由がある場合です。住民票を移すと、行政サービスを受けられたりマイナンバーを取得できたりとメリットがある一方、金銭的な負担が発生するというデメリットもあります。一時帰国時の住民票異動については、その必要性をよく検討した上で、判断するようにしましょう。